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女子プロ格闘家、渡辺久江

元ギャル格闘家、世界へ

女子プロキックボクシング界に、大きな注目を浴びる選手がいる。
デビューからわずか3年ですでに25戦。タイトルホルダーでありながら、外見は金髪に派手なメイク&ストリートファッションという元ギャルである。渡邊久江23歳。彼女にとってギャルも格闘技も人生を楽しむ手段だった。


私はただのミーハー田舎娘。
東京に憧れて、ギャルやってたんです


女子プロ格闘家 渡邊久江目の前にいる、小柄な女のコがタイトルホルダーなのか、と目を疑った。
渡邊久江23歳。昨年、タイで行われたインターナショナル女子ムエタイ・ライト・フライ級王座決定戦で、タイのアイドル戦士を破りベルトを巻いて凱旋帰国。今年5月の『TBS黄金筋肉・女子総合格闘技最強女王決定トーナメント』では総合ルールのブランクをものともせず優勝。賞金100万円を獲得したトップファイター。

「バイクの免許を取りにいきたかったんですけど。でも引越しもしたいな…。とりあえずコンポを買って、残りは貯金してます」

100万円の使い道を尋ねると、普通の23歳の女のコらしい答えが返ってきた。
ピンクのキャミソールにロールアップしたタイトなジーンズ。サンダルはラインストーンがついた今風のもの。金髪にブルーのアイメイク。どこからどう見ても、今どきの女のコだ。
元ギャルである。高校時代は地元・栃木から毎週渋谷まで遠征しては遊び歩いた。

「宇都宮で7時間遊ぶより、東京に2時間でもいたかった。典型的な田舎のコでしたから(笑)」

“Girls SHOCK”はピンクのグローブ

学校を早退して片道3時間電車に揺られ、109でショッピング、センター街をふらつき友達とダベる。ただそれだけのことが楽しくて仕方ない10代。

「高校時代の目標は“ちゃんと卒業する”でしたから(笑)。まぁ親が厳しかったこともあって、無事卒業証書はもらえましたけど」

中学時代はテニス少女。毎日のように部活に明け暮れ、そこそこの腕もあった。しかし進んだ高校のテニスはレベルが低かった。とたんにやる気は失せた。

彼女が定期参戦する女子立ち技格闘技 “Girlds SHOCK”はピンクのグローブが目印。
オフィシャルHP: www.girls-shock.com

「子供の頃はファッションデザイナーになりたかった。デザイン画を描いたりもしてたし。雑誌は『CUTiE』とかを読んでいたので、ミルクやヒステリックグラマーが好きだったんです。でも、ある日『egg』を読んでびっくりしちゃった。憧れの東京で一番幅を利かせてるのは、ギャルファッションだったのかって衝撃と同時に、こうしちゃいられないって、慌ててアルバローザを買いに行っちゃった(笑)」

以後はギャル道一直線。ガン黒、夜遊び、センター街。
「東京に憧れる田舎娘の典型。ミーハーだったから」と言うが、そのミーハー心を格闘技に転換させたのはなんだったのか。

格闘技経験なんてなし。
でも卒業アルバムには「将来はスーパーサイヤ人になるっ」って。


「ボクシングもプロレスも見たことなかった。私の中での格闘技は漫画『ドラゴンボール』のベジータが原体験。中学校の卒業アルバムにも“将来の夢:スーパーサイヤ人になるっ!”って書いてたぐらいですからね(笑)」

喧嘩っ早かったわけでもないが、趣味で鍛えていた腹筋、脂肪の少ないプロポーション、幅の広い拳と天賦の才を持っていたことから、空手道場に通う先輩から、ぜひにとスカウトされたこともあったそうだ。ぼんやりと格闘技も面白いかも、と考えてはいたが行動には結びつかない。高校卒業後上京し、ギャル道に磨きはかかった。やがて、ファッションも夜遊びも、少し飽きてきたかなという頃、テニスに打ち込んでいた中学時代を思い出したのだろう、なにか打ち込めるスポーツをと考えた。どうせなら試合のできる競技、そして世界を狙える種目がいい。ならばと知人を通じて訪ねたのは総合格闘技のジム。

女子プロ格闘家 渡邊久江「K-1が注目され始めた頃。TVで試合を見て、次の日はシャドーの真似事をして筋肉痛になったりしてね(笑)。でもなんとなく面白そうだなっていう、すごく軽い動機だったんです」

21歳のとき、キックのジムに入門。本格的にトレーニングを始めると頭角を現す。当時女子キックの試合はなく、デビュー戦は女子総合格闘技。

「初戦はいきなり反則負けしちゃいました。グラウンドでの顔面攻撃をしちゃいけないルールだったんです。それでヒール(悪役)のイメージが付いちゃったんで、以後クリーンファイトを心がけています」

デビューからわずか2年で世界タイトルを獲得。すでに総合ルールなどを含め25戦を経験し、10年選手とキャリアは並ぶ。女子キックボクシング大会“Girls SHOCK”の看板選手として、実力・人気ともに一流の選手へと急速に成長を遂げた。

「素質があったんですかね?」と照れながら微笑む。鍛え抜かれ、しなやかに隆起する筋肉は、以前のギャル時代の姿とは考えられないほど変わった。しかし、この笑顔は変わらない。
「リングの上の私を見つけて、ギャルだった頃の友達が気づいてくれたうれしいな」

今ではクラブも渋谷も遠のいた。クラブ通いはジム通いに変わったがあの頃の自分と何も変わらないと彼女は笑う。

「人生は変わったけど、私自身は何も変わってない。今を、その場を楽しむこと、楽観主義で生きること。どうにかなるさの気持ちは子供の頃から」

 試合の前は逃げ出したいくらい怖いという。しかしひとたびリングに上がれば相手を倒すことに集中する。負けたらどうしよう、という不安は考えるだけ無駄だ。なにしろ彼女は“今”を生きることに集中しているのだから。

PROFILE:1980年10月21日生まれ。栃木県出身。インターナショナル女子ムエタイ・ライト・フライ級王者「負けると思って試合には出ないけど、負けたらそのときはそのとき。その先の人生終わっちゃうわけじゃないし。将来はこの世界で指導者として残るのか、別の世界に転職するか、全然考えてないです。タレント?それも面白いかもしれない(笑)」


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